「経費を下げるな、戦略を持て」──バブル崩壊を乗り越えた税理士が、40年かけてたどり着いた経営支援の本質
勝元 一仁(かつもと かずひと)|税理士法人合同経営会計事務所 代表税理士
昭和32年に福井で創業し、かつて日本一の規模を誇った合同経営会計事務所の流れを汲む大阪拠点の代表。20年以上にわたり大阪・心斎橋から全国の中小企業経営を支え続けてきた。金融機関対応・資金調達の専門家であり、銀座コーチングスクール認定コーチ、M&Aシニアエキスパート、ほめ達検定1級の資格も持つ。日本経営コーチ協会認定事務所。64歳の今もなお、年間600万円を研修に投じ、AIの最前線を走り続けている。
インタビュワー:まず、事務所のルーツについてお聞かせください。
もともとのルーツは、昭和32年(1957年)に福井県福井市にできた合同経営会計事務所です。これが結構大きな事務所でして、昔は日本一の時代もあったんですよ。福井に税務署ごとに出先があって、職員が200名ぐらい。納税者のシェアが約6割という、ちょっと信じられないような規模でした。
その事務所が昭和42年に大阪に支店を出しまして、昭和48年頃に独立したのが今のうちの事務所の原型になります。大阪、東京、堺の3つに分かれたんですが、福井の本体は非同族で今も続いていて、200名規模の大きな事務所ですね。

インタビュワー:「日本一」の事務所の系譜ということですね。勝元先生ご自身は、どのような経緯でこちらに?
20年ちょっと前のことです。もう一人の代表の牧野は、税理士試験の勉強時代からの友人でね。牧野は親の代からの税理士で、僕より5つ上です。「入れてもらった」というのが正直なところです。
面白いのは、うちの運営スタイルなんです。お互いに束縛せず、自由にやっている。中に別々の事務所があるようなイメージですね。
インタビュワー:自由にやりながら、同じ法人にしているメリットとは何でしょうか。
やはり税理士に何かあったときに困るというのが一番です。相談相手にもなれますし、万が一のときにお客さんに迷惑をかけない体制をつくれる。平成17年に法人化したのも、まさに事業承継が最大の理由でした。お客さんを守るためですよ。
今は税理士2名を含めて12名ぐらいの体制で、大阪の心斎橋を拠点にやっています。
インタビュワー:150〜200社の顧問先をお持ちと伺いましたが、どのように増えてきたのでしょうか。
これはよく驚かれるんですが、営業をしたことがないんです。ほとんどが紹介ですね。
紹介好きなお客さんがいて、その方の近しい規模や業種の方を紹介してくれるんです。だから自然と「合う」方が集まってくる。北海道から福岡まで全国にお客さんがいますが、紹介ベースだから地域は関係ないんですよ。
インタビュワー:顧問先の規模感はいかがですか。
売上1億円以下が60%弱、1億〜10億円が20〜25%、10億円以上が10%ぐらいです。年齢層は幅広いですが、一般的に言われる私の年齢(64歳)の前後10歳ぐらいが多いですかね。
紹介というのは、紹介する側がある種の「フィルター」をかけてくれているんです。自分と近い考え方、近い規模の人を連れてきてくれる。だから、わざわざこちらから選ばなくても、合う方が自然と集まってくる。40年以上この仕事をしてきて、結局それが一番確かなご縁のつながり方だと実感しています。
インタビュワー:勝元先生が経営支援で最も大切にされていることは何でしょうか。
調子が悪いときに「経費を下げろ」とは、僕は絶対に言わない。逆に、経費を使っていない社長には「仕事してないでしょ」と言いますよ。
これは最初のバブル崩壊のときに痛感したことなんです。売上が下がると、多くの会社が役員報酬を下げて、固定費を下げて、なんとか利益を出そうとする。気持ちはわかります。でもそれをやると、広告もやめる、交際費も削る、結局人に会わなくなって、売上がさらに落ちていく。何度もその悪循環を見てきました。
売上を作る、仕入先を作る、経費を下げる──この3つの中で、経費を下げるのが一番簡単なんです。一番簡単だからこそ、多くの経営者がそこに逃げてしまう。でも、簡単な方に流れたら会社は成長しない。
インタビュワー:節税に対してはどのようなスタンスですか。
必要な節税はもちろん大切です。それは否定しません。でも、税金を惜しんで節税のために無理にお金を社外に流出させるのは、会社の成長を自分の手で止めているのと同じだと考えています。
僕は会社は複利でやっていくものだと思っているんです。利益をきちんと残して、それを翌年の事業に再投資する。その繰り返しで会社は育っていく。なのに「税金がもったいないから」と利益を外に出してしまったら、次の年の成長の原資がなくなる。必要な節税はもちろんやります。でもその上で、使うもんは使う。その考え方は僕の中ですごく強くありますね。
だから僕は、「戦略を持って事業をしてますか?」と常に言っています。
インタビュワー:そうした哲学に共鳴する経営者が集まってくるのですね。
そうですね。協調性があって、明確な戦略と目標を持って事業に取り組んでいる経営者とは話が合います。逆に、正直に言えば、細かいことにこだわったり経費を下げることばかり優先する方は、お互いのためにお受けしないこともあります。お互い不幸せになってしまいますからね。
インタビュワー:今後、特に力を入れていきたい分野はありますか。
社外CFOですね。僕のキャリアの中で金融機関との折衝や資金調達が一番の得意分野なんです。長年やってきた中で、銀行とのやりとりに関する知見はかなり蓄積されています。
売上5億〜20億円ぐらいの企業って、経理担当がいなかったり、いたとしても財務の知識が十分ではないケースが非常に多い。決算書は作れても、銀行にどう見せるか、どのタイミングで融資を打診するか、金利交渉のポイントはどこか──そういった実務としての財務戦略を持っていない。そこを僕が代わりにやることで、資金調達が格段にうまくいくようになるんです。月1〜2回の接触を目安にしつつ、税務の枠を超えて経営の中枢に関わる仕事です。
インタビュワー:コンサルティングや採用支援もされていると伺いました。
コンサルはコーチングに近い形ですね。月1回から3ヶ月に1回ぐらいの頻度で、税理士の顧問先とは別の会社にも提供しています。面白いのは、目標を持って事業に取り組んでいる方が多いので、目標を達成しても契約が続くんです。「1年経ったら辞めましょう」と言っているんですが、なかなか辞めてくれない(笑)。
採用コンサルティングも手がけていまして、社労士と提携しながら、Indeedの求人記事の作成から応募者への初期対応の代行まで一貫してやっています。3Kの業界もありますし、それ以外でも応募はあるのに対応するのを忘れてしまっている会社って結構あるんですよ。そこをうちが代行する。2年以上契約が続いているところも多いです。
インタビュワー:サービスの幅が非常に広いですが、何をやるか・やらないかの判断はどのようにされているのでしょうか。
判断軸はシンプルです。自分で実際に体験して、良かったものだけをサービスにする。それだけです。
僕は研修が好きなんですよ。去年だけで600万円ぐらい研修に使いました(笑)。中小企業CFO養成講座をはじめ、さまざまな研修に自分で足を運んでいます。
良かったものは続ける。ダメだったらスパッと辞める。逆に、良かったものはお客さんにも自信を持って勧められます。「僕がやってみて、これは効果がありました」──実体験に裏打ちされた言葉でなければ、経営者には響きませんから。
40年以上この仕事をしてきて、自分が納得していないものをお客さんに勧めたことは一度もないです。それは64歳になった今でも変わらない信念ですね。

インタビュワー:IT活用やDXへの取り組みについてお聞かせください。
うちは20年以上前からペーパーレス化を進めています。去年の目標はクライアントへの納品もすべてペーパーレスにすること。ダイレクト納付、振替納税も100%対応しました。
20年前というと、まだ多くの事務所が紙の元帳を綴じて棚に並べていた時代ですよ。うちはそのときから「全部データでやる」と決めた。ペーパーレスに切り替えるときは、それ専用に人を雇ったんです。職員にやらせなかった。職員には本来の仕事に集中してもらいたかったから。
インタビュワー:20年前からとは、かなり先進的ですね。今の環境はどのような形ですか。
在宅勤務用にデスクトップPCと24インチの画面を2台、事務所には42インチの画面と27インチの縦型モニター。職員の机には必ず1台スキャナーを置いています。Google Workspaceは一番高いプランを入れていて、ログイン認証からデータ管理まで一元化。以前はサーバーを事務所に置いていましたが、全部クラウドに移行しました。
そして今、一番力を入れているのがAIです。Google WorkspaceのGeminiとChatGPTのチームプランを導入して、ChatGPTの40万円の研修も職員全員に受けてもらいました。事務所の取り組みを顧問先にもお伝えして、AIの活用を広げています。
インタビュワー:実務の中ではどのようにAIを活用されていますか。
たとえば、決裁を電子で回して、最後にGeminiが試算表の評価をするというワークフローは、もう実際に動いています。近い将来、なんでも入れ込んだら勝手に元帳ができるサービスができると僕は思っています。
仕事がなくなるかどうかの話よりも先に、AIを使いこなせているかどうかで大きく差がつく。数年のうちに税理士の業務は大きく変わりますよ。64歳の僕がそう確信しているんだから、若い税理士はもっと危機感を持ったほうがいいかもしれませんね(笑)。
インタビュワー:事務所の将来像について、どのようにお考えですか。
最近、職員の年齢が若返ってきているんです。4月には20歳の、税理士を目指している方も入ってきます。今いる職員でも、税理士試験の4科目合格が1人、3科目合格が2人、ほかにも勉強中のメンバーがいます。
去年今年と採用がうまくいって、体制がまた充実してきました。
インタビュワー:次の世代に期待されることは?
職員には税理士になってもらいたいんです。そしてパートナーとして、一緒に事務所を運営してほしい。僕が早く引退できるように(笑)。
冗談じゃなくて、半分は本気ですよ。僕がここまで積み上げてきた「攻めの経営支援」──経費を下げるな、戦略を持て、複利で育てろ──そういう考え方を受け継いでくれる人が育ってくれたら、それが一番嬉しい。AIを使いこなして、時代の変化に対応できる税理士を育てること。それが今の僕にとって、一番大事な仕事かもしれません。
インタビュワー:最後に、これから税理士を探している方へメッセージをお願いします。
合うまで変えろ。僕はそう言い続けています。
社長というのは、普段なかなか率直なことを言ってもらえない立場です。だからこそ、税理士には何でも話せる人を選んでほしい。自分の考え方、事業の方向性、お金のこと、人のこと──全部さらけ出せる相手がいい。その上で、考え方が「合う」と感じられるかどうかが一番大事です。
大手だからいいとか、小さいからダメとか、規模は関係ない。全国に3万以上の税理士事務所があるんです。必ず自分に合う税理士はいますよ。見つかるまで、妥協せずに探し続けてほしい。
40年以上この仕事をしてきて確信しているのは、良い経営者には、良い税理士がパートナーとしているということです。その出会いが、経営の未来を大きく変えると信じています。
インタビュワー:勝元先生、本日はありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
「経費を下げるな、戦略を持て」──バブル崩壊を現場で目撃し、守りに入った企業が次々と力を失っていくのを見てきた方の言葉には、理屈を超えた重みがありました。節税よりも再投資、縮小よりも攻め。それは単なるポジショントークではなく、40年以上の実体験から蒸留された経営哲学そのものでした。
もうひとつ印象に残ったのは、64歳にして年間600万円を研修に投じ、AIの最前線を走り続けているという事実です。「若い税理士はもっと危機感を持ったほうがいい」と笑いながら語る姿に、税理士業界のこれからを本気で見据える覚悟を感じました。
「縁あるものを幸せに」。この座右の銘が、先生の仕事のすべてを貫いていると感じたインタビューでした。
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