監査法人、PEファンドを経て30歳で独立。”経営の当事者”でありながら税務顧問をする会計士の新しいスタイル

太田 匠(おおた たくみ)|匠永・アンド・カンパニー会計事務所 代表 公認会計士・税理士
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。EY新日本監査法人大阪事務所にて大企業から中堅中小企業まで幅広い会計監査を経験した後、25歳でPEファンドのアスパラントグループに転じ、投資先企業に取締役として常駐。約4年間、中小企業の経営とM&Aにフルコミットした現場経験を積む。30歳で独立し、匠永・アンド・カンパニー会計事務所と匠永・アンド・カンパニー株式会社を設立。会計事務所では税務顧問・CFOサービスを通じた伴走型の中小企業支援を、株式会社では後継者不在の中小企業を自己資金で譲り受け、中長期的に企業価値の向上を目指す事業承継を手がける。
インタビュアー:まず、匠永・アンド・カンパニーさんの事業内容について教えてください。
母体は二つあります。一つが株式会社で、もう一つが会計事務所です。
株式会社のほうでは後継者がいない中小企業様の株式を自ら譲り受けて、承継問題を解決しつつ企業価値の向上と永続を目指す事業承継の支援事業を運営しています。ファンドのように外部から資金を預かって資金運用するのではなく、自己資金と金融機関からの融資で調達して、中長期の支援をしていくというスタイルを取っています。現在は投資先の候補となる中小企業様を探して案件を精査している段階で、まだ実績はありませんが、じっくりと良い出会いを探しているところです。
会計事務所のほうでは、税務顧問や税務サポートを軸に、毎月の記帳代行や月次決算で経営状況を見ながら、CFOのような形で中小企業に伴走していくサービスを提供しています。一般的な税務代行にとどまらず、アドバイザーやパートナーとしての中小企業支援が私たちの根幹です。
インタビュアー:この二つの事業を同時に運営することには、どんな意味があるのでしょうか?
二つの事業には相乗効果があると思っています。自らリスクを取って企業を経営しているからこそ、会計事務所としてアドバイザーの立場でお客様に提供できるものも深くなります。経営の当事者でありながら、専門家としても関わる——この両輪が自分の強みだと考えています。
インタビュアー:「匠永」という社名に込めた想いも聞かせてください。
日本の中小企業には、独自の強みがあると思っています。長年培ってきた技術や、他に代えられない価値——それを「匠」と表現し、その価値を持つ中小企業が永続的に発展していくことを「永」という文字で表現しています。「匠の価値を永続させる」という想いを込めて匠永という名にしました。
前職のPEファンドでは、50年、70年と続いている歴史ある企業に出会いました。社会に価値を提供し続ける企業を築き上げることの偉大さに深い敬意を抱くとともに、その価値を守り、発展させていくことの重要性を強く認識しました。他に代えられない価値を持っているのに、ただただ後継者がいないだけで企業を潰してしまうのは本当にもったいない。後継者不在というだけで価値ある企業が消えていく現状を、何とかしたい。そう強く思って、この名前をつけました。
インタビュアー:京都大学経済学部のご出身とのことですが、公認会計士を目指したきっかけは何だったのですか?
最初は税理士になることは想定していませんでした。学生時代に「経営の役に立つスキルを身に着けたい、手に職をつけたい」と漠然と考えていて、会計士の資格取得を目指しました。きっかけは大学の簿記の授業でした。理解を深めるにつれて「複式簿記はすごい仕組みだ」と思いました。会社で何が起きているかを数字に落とし込んで、数字をもとに経営の判断ができる。複雑な経営の現実を、共通言語として表現できる仕組みに魅了されて、在学中に会計士資格を取得しました。
インタビュアー:新卒でEY新日本監査法人に入られたんですね。
はい、EY新日本監査法人の大阪事務所に入所しました。金商法・会社法監査を中心に、売上高数兆円規模の大企業から中堅中小企業まで、本当に幅広い会社を担当しました。大阪事務所だったこともあって、東京事務所に比べてさまざまな業種・規模の会社に関われたのは大きかったです。
大企業は内部統制含めた管理体制が綿密に整備されている一方で、中小企業は人手も限られているので費用対効果も見ながら有効な体制を整備していかなければならないという現状があります。両方の視点で見ることで、理想論を押し付けるのではなく、限られたリソースでどうしたら実現できるか?という考え方の土台ができたと感じます。こうした経験により中小企業の事業運営の解像度が上がり、今の仕事に繋がっていると感じています。
インタビュアー:監査法人からPEファンドに移られたのは、かなり大胆な選択だと思います。何がきっかけだったのですか?
監査法人での仕事を続ける中で、ある疑問が大きくなっていきました。監査業務の目的は突き詰めると数字の検証です。独立した第三者的な立場で企業の財務諸表を検証する——それが監査の本質ですから当然なのですが、経営の当事者にはなれない。「自分はこの立場で関わり続けるのか?」と考えたんです。
次のキャリアを考えている時に、中小企業など非上場企業に投資して株主という立場で経営支援を行い企業価値の向上にコミットするPEファンドという存在を知りました。監査法人から投資銀行のM&Aアドバイザリーやコンサルティングファームに行くという選択肢もありましたが、自分はアドバイザーではなく、当事者として経営に携わりたい——そう思ってPEファンドに飛び込みました。当時25歳でなんとかポテンシャル枠で入れてもらえた形です。
インタビュアー:PEファンドでの約4年間は、具体的にどのような仕事をされていたのですか?
投資先企業に常駐して、CFOのような形で現場の方々と一緒に働いていました。毎週経営会議を通じてPDCAを回していく。中小企業の経営にフルコミットする日々でした。
一番大きな学びは、当たり前ですが「戦略はあっても実行は難しい」ということです。戦略を立てることと、それを現場に落とし込んで実行し継続していくことは、まったく別の難しさがある。社員一人ひとりの考え方も違えば、現場の事情も千差万別です。「こうすれば良くなるはず」と頭ではわかっていても、実行して定着させるところに本当の壁がある。その厳しさを肌で感じた4年間でした。
インタビュアー:20代半ばで経営の現場に入るのは、周囲との関係構築も大変だったのではないですか?
おっしゃる通りです。「こんな若造に何ができるんだ」と思われるのは当たり前ですよね。ただ、自分の場合は公認会計士でもあったので「数字のスペシャリスト」という見られ方をしてもらえたことが関係構築のきっかけになったと思います。
管理会計をもとに原価計算や部門別損益の仕組みを導入して、経験や勘ではなく、数字という事実をベースに議論することではじめて足並み揃えることができたと感じました。また同時に数字の力が経営の現場でどれほど大きいかを実感した期間でもありました。
インタビュアー:監査法人からPEファンドという恵まれた環境を経て、30歳で独立を決断されました。周囲の反応も含めて、どのような想いがあったのですか?
実は、独立すること自体は自分の中では既定路線だったのかもしれません。家族が商売の家系だったこともあり、自分もいつか自分の会社を立ち上げたいという想いはずっとありました。「いつやるか」だけの問題だったのだと思います。
起業して今のビジネスモデルに至った背景には、PEファンドとは異なる仕組みで事業承継問題を解決したいと思ったことがきっかけです。PEファンドは投資家から資金を預かりその資金を運用して収益を分配するという仕組みです。一般的には資金の運用期間は10年で、その時間的制約のなかで投資からExitまで完了させる必要があります。非上場企業の株式に流動性をもたらしより良い株主にバトンタッチするという観点では優れた仕組みですが、一つの企業への投資期間は数年と短くなってしまいます。この時間的制約を超えて中長期的に企業に向き合い企業価値の向上にコミットできればまた違った結果になるのではないかと考え、今のビジネスモデルに至っています。
インタビュアー:太田さんが描く将来のビジョンはどのようなものですか?
事業承継に課題のある企業を自ら譲り受けてグループとして経営して成長を目指す一方で、事業運営する過程で得られた経験をもとに会計事務所としても会計・税務だけではなく+αの価値をお客様に提供していくというビジョンを持っています。そうしたビジョンを一緒に目指すことができるメンバーも今後増やしていきたいです。
事業承継支援としてはただ企業を買収することを目的にしていません。社会に価値を提供し続け、何十年、あるいは百年近い歴史の中で独自の価値を築かれてきた企業様とご縁をいただき、伴に成長できればと思っています。会計事務所としては、これから積極的に事業拡大していきたいという企業様や将来的に出口戦略や事業承継を考えていきたいという企業様をご支援できればと思っています。
インタビュアー:独立して約1年が経ちますが、想像と違ったことや苦労されたことはありますか?
独立すると当然、全ての意思決定とその責任は自分になるわけですが、意思決定の判断軸の持ち方が想像よりも難しいと感じる一方で、そこが独立して面白い点でもあるなと感じています。自分が起業する立場になってはじめて実感した部分でもあり、改めて事業を立ち上げている経営者の方々の凄さを認識しています。
インタビュアー:改めて、会計事務所のお客様はどのような方が多いですか?
今のお客様は卸売業、不動産関係など業種は様々で、経営者のご年齢も幅があります。担当しているお客様で共通しているのは、「会社を大きくしていきたい」という想いを持っている方ばかりだということです。
会社にはいろんなライフステージがあると思っています。これから会社を立ち上げていく段階、M&Aや資金調達を活用して事業を拡大していく段階、事業を方針転換する、Exitを考える段階、ご高齢になって親族内承継や第三者M&Aによる承継を考える段階。さらには社長個人の相続という局面もある。どのステージにいても、パートナーとして長く関与していける。それが私の目指す姿です。
インタビュアー:お客様との日々のやり取りはどのようにされていますか?
お客様の日々のやり取りはオンライン面談とチャットを基本にしています。月次の試算表を一緒に見ながら、今期の着地見込みをディスカッションしたり、資金繰りの計画を立てたり、経営課題について一緒に考えたりしています。単に数字を報告するのではなく、その数字をもとに「次にどうする?」を一緒に考えるのがパートナーの本質だと思っています。
業務はできるだけ型化したいと考えていて、すべてオンラインで完結させるのが理想です。証憑書類は写真でクラウドにアップしてもらって記帳しますし、契約書も電子署名を使います。郵送や紙ベースのやり取りは極力排除しています。お客様にとっても事務所にとっても、無駄な手間を減らすことが、より本質的な経営支援に時間を使うことにつながると考えています。
インタビュアー:この志を一緒に実現するメンバーは、どのように集めていこうと考えていますか?
数字を分析することができる、経営戦略を立てることができるといった何かスキルが秀でているというより、当事者としてコミットでき、最後までやり遂げることができる方にジョインしてもらいたいです。
また、本質にたどり着こうとする姿勢があるかどうかも重要な要素だと考えています。経営に携わると色々な情報に出会います。聞く人によって言うことが違うということはよくあることです。自戒も込めて、本質は何かを考え、しぶとく真実にたどり着こうとする姿勢がとても大事だと思っています。
インタビュアー:最後に、税理士を探している経営者の方にアドバイスをいただけますか?
事業を成長させたいと考えている経営者の方は単に価格だけで税理士を選ぶのではなく、長期的なパートナーとしてコミットしてくれる税理士かどうかという視点で選ぶことが大事だと思います。もちろん、社内に優秀なCFOの方がいる場合などは専門的な税務業務だけを外注してコストを抑えるという考え方もありますが、そうではない場合は、会計・税務の専門家としてはもちろん、経営の当事者という目線を持って会計税務業務に携わるパートナーが事業成長には不可欠だと考えています。
社長自身が日々の業務に追われていたり、数字に詳しくなかったりすることは珍しくありません。だからこそ、数字を一緒に見て、経営の判断材料を提供してくれるパートナーを見つけることが重要です。私たちは、格安に単に税務業務を提供する会計事務所ではないので安くはないですが、投資の見返りとして、経営の質が上がるのであれば、決して高い買い物ではないはずです。
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取材後記
京都大学在学中に公認会計士に合格し、EY新日本監査法人で経営の解像度を磨き、PEファンドで中小企業経営の現場に飛び込み、30歳で独立——太田さんのキャリアは、一貫して「経営の当事者でありたい」という強い意志に貫かれています。
印象的だったのは、「買うことを目的にしたくない」という言葉です。事業承継の世界では規模や件数が語られがちですが、太田さんが見ているのは「独自の価値を持つ会社」かどうか。PEファンド時代に感じた時間的制約への問題意識が、ファンド形式ではなく自己資金で事業承継に取り組むという独自のスタイルを生み出しました。
「戦略はあっても実行は難しい」——PEファンドの現場で得たこの実感は、単なる教訓ではなく、太田さんの支援スタイルそのものを形作っています。数字のスペシャリストとしての客観性と、経営の当事者としての泥臭さ。その両方を知っている会計士が、「企業のパートナーとして伴走したい」と語る言葉には、確かな重みがありました。
開業から間もない今、顧客はまだ両手で数えるほど。しかし、「匠の価値を永続させる」という社名に込めた志と、監査法人・PEファンドで培った実力の掛け合わせは、これから多くの中小企業にとって心強いパートナーとなるに違いありません。
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