確定申告に悩む父の姿が原点——相談しやすい税理士であるために、freeeとAIを武器にしたひとり税理士

若林 貴志(わかばやし たかし)|若林貴志税理士事務所 代表税理士
23歳で税理士試験に合格。事業承継案件を多く手がける事務所とクラウド会計特化の事務所で計6年の実務経験を積み、独立開業。freee特化・オンライン完結型のひとり税理士として、中小企業・個人事業主を中心に全国の顧客をサポートしている。法人成りの支援実績も豊富。大学で5年半の講師経験があり、専門用語をわかりやすく伝えることを得意とする。
税理士を目指されたきっかけを教えてください。
中学2年生の時でした。父親がシステムエンジニアとして自営業をしていまして、子供の頃から確定申告の時期になると税金のことで悩んでいる姿をずっと見てきたんです。
子供って、親の役に立ちたいと思っていても、本当の意味で力になれることってなかなかないじゃないですか。でも、税金のプロフェッショナルになれば、父親の悩みに答えられるのではないかと思ったのがきっかけでした。
もうひとつ、漠然と感じていたのは就職活動への不安です。何も武器を持たずにスタートラインに立ったら勝てないんじゃないかと。自分に自信がなかったからこそ、資格という形で手に職をつけたかったんです。加えて、税金って大人でも難しいと感じるものなんだ、ということに気づいて。中学生ながらに「これは価値のある仕事になるかもしれない」と感じていました。
中学生の頃から将来のキャリアを意識されていたのですね。
心配性なんだと思います(笑)。先のことを考えると不安になるタイプで、だからこそ早めに手を打っておきたかった。高校3年生まで野球に打ち込んでいて、高校2年生の時には全国大会にも出場しました。ただ、部活と並行して簿記3級までは取っていたんです。8月に引退して、大学の内部推薦が決まっていたので、すぐに簿記2級、1級の勉強を始めました。少しでも先に進んでおかないと落ち着かない性格なんですよね。
税理士試験の道のりはいかがでしたか?
正直、ずっと順調だったわけではありません。ほぼ毎日10時間近く勉強していましたが、それを1年続けても合格科目がゼロという年もありました。最終的に合格できたのは大学を卒業した年の12月です。苦しい時期もありましたし、心が折れたこともあります。
ただ、周りの方々に支えてもらえたのが大きかったです。家族はもちろん、大学でも合格した先輩が後輩を教える制度があって、成功した人の体験を間近で聞くことで「自分にもできるんじゃないか」と思えたんです。その経験があったからこそ、苦しい時期を乗り越えられたし、今の自信にもつながっていると感じます。
今では父からインボイス制度だったり税金の相談を受けたりするんですよ。食事をした時に「こうした方がいいよ」とアドバイスできる。中学生の頃に思い描いた通り、親の役に立てている実感があって、この仕事を選んでよかったなと思います。
大学卒業後のキャリアについて教えてください。
最初の3年間は、事業承継をメインに扱う事務所で働きました。事業承継は、相続税、贈与税、所得税、法人税、消費税と、勉強してきたすべての税目が絡んでくる難易度の高い分野なんです。
自信がないからこそ、いきなり一番難しいところに飛び込みたいという性格でした。当時は未経験者を採用する事務所は少なかったんですが、なんとか入れてもらい、結果的に、相続の実案件にも携わりましたし、相続シミュレーション、事業承継コンサルティング、個人事業主から大手企業までの決算、地主さんの資産管理会社まで幅広く経験できて、あらゆるスキルが身についた実感がありました。
そこからクラウド会計に軸足を移されたのですね。
転機になったのは、コロナ禍でした。1社目は出社が前提の働き方で、リモート対応が難しい環境だったんです。税法は毎年変わりますし、クラウドツールもどんどんアップデートされていく。「変化できる自分でありたい」という思いが強くなって、働き方の前提から変えられる事務所を探しました。
2社目は、在宅勤務が標準で、クラウド会計を使って多くのお客様に対応していくスタイルの事務所でした。当時10名ほどの規模で、自分が中心になって引っ張っていけるんじゃないかと思って飛び込みました。税務相談や申告書作成に加えて、新規営業やブログ執筆、新入社員の教育まで——1社目では経験できなかった幅広い業務にチャレンジさせてもらえた環境でしたね。
想定通りステップアップはできたんですが、組織が大きくなるにつれ、後方で支える役割が増えていきました。申告書のチェック業務が中心になり、お客様と直接話す機会はどんどん減っていったんです。
それが独立につながったのですね。
はい。直接経営者の方とお話がしたい性分なんです。例えばその経営者がリスクを取りたいタイプなのかどうか、潜在的な悩みは何か——そういう温度感は、直接話さないとわからないところがあります。
もともと、独立したいと思っていたわけではないんです。ただ、やりたいことを実現するためには独立しかないんだろうなと。迷いはなかったですね。ダメだったらまたどこかで雇ってもらえばいいかくらいの気持ちでした(笑)。
2社の経験を通じて感じたのは、税理士事務所はそれぞれまったく違うということです。どんなサービスで売っていくか、料金の決め方ひとつとっても全然違う。1社目は所長の経営判断で柔軟に決まるスタイル、2社目は年商に応じてデジタルに決まるスタイル。税理士事務所ごとの考え方や運営の違いを実際に見られたのは、大きな財産でした。
今のスタイルは2社目に近く、すべてオンラインで完結する法人顧問に特化しています。相続はまだオンラインだけでは難しいところがあると感じていますが、法人顧問であればオンライン完結型で対応できるという確信がありました。
freeeに特化されている理由を教えてください。
単純に、freeeは操作性が高く、痒いところに手が届くソフトだと感じていたのが大きいです。これまでのキャリアでは複数のソフトウェアを扱う事務所にもいましたが、ソフトが増えたりアップデートするたびに「このボタンはどういう意味なんだろう」と学び直さなければならない。税務の判断とは関係のないところにリソースを持っていかれるのは避けたかったんです。
ひとり税理士ですから、限られた時間をどこに使うかはとても重要です。であれば、ひとつのソフトに精通して、その分を税務判断やお客様への対応といった本来の業務に集中した方がいい。そう考えてfreeeに特化してきましたし、今振り返っても良い判断だったと思っています。
講師の経験が5年半あるとのことですが、現在の業務にどう活きていますか?
大学で財務諸表論を5年半教えていました。相手は大学生ですから、専門用語はわからない。いかに噛み砕いてわかりやすく伝えるかを鍛えることのできた経験でした。
週1回土曜日に登壇して、平日に学生から質問が来たらそれに返して、というサポートの日々でしたね。今の税理士業務でも、お客様に専門的な内容をお伝えする際には、この時の経験が大いに役立っていると感じます。
AIも積極的に活用されているそうですね。
もともと生成AIには関心を持っていて、業務に取り入れられるところから少しずつ活用していました。大きなきっかけのひとつになったのが、freeeがAPIを外部に公開したことです。freeeの中のデータを直接拾えるようになりましたし、記帳の補助にも使える。AIと会計ソフトがつながることで、効率化の幅が一気に広がった実感があります。
ただ、お客様の中には不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。ですから、契約の中に覚書という形で、AIを活用して業務を行うことを明記し、ご納得いただいた上で利用しています。税理士という立場である以上、セキュリティへの配慮は大前提だと思っていますし、お客様の情報の取り扱いについて曖昧な運用はあってはいけないと思っています。
法人成りにも強みがあると伺いました。
前職時代から、個人事業主の方が法人を設立する際のご相談を数多く受けてきました。独立後も法人成りの紹介を多くいただいています。
特に納得いただきやすいのは、社会保険料を含む節税のシミュレーションです。役員報酬をいくらに設定するかで、支払う税金が変わってくる。役員報酬を高くすれば所得税と社会保険料が上がり、低くすれば生活資金が手許から減る上に法人税が上がる。このバランスを、スプレッドシートを画面共有しながらあらゆるパターンでご説明しています。これから法人化を考えている方には、ぜひご相談いただきたいですね。
お客様とのコミュニケーションで大切にしていることは?
ひとり税理士なので、すべてのお客様と直接やり取りしています。これは開業のきっかけでもありましたから、そこは譲れないところです。
数字の部分をしっかりお伝えするのは当然として、それだけでなく、経営者の方が何を不安に感じているのか、どれくらい攻めたいのか守りたいのか、そういう温度感を確認することを大切にしています。経営者は孤独を感じやすい立場でもありますから、その孤独に寄り添えるようなサポートでありたい。
単に申告書を作るだけの関係にはならないようにしています。お客様が今後の経営に活かしていけるようなアドバイスを心がけていますし、何かを判断するための材料をきちんと提示して、お客様自身が「判断できる状態」に持っていくことを意識しています。
今後、事務所としてどのような方向を目指されていますか?
正直なところ、以前は顧問件数に頭打ち感を持っていたんです。ところが生成AIを活用するようになって、単純作業の負担を減らせるようになり、より多くのお客様に対応しながら、経営や節税に関するアドバイスにもきちんと時間を割ける——そういう手応えが出てきました。
ひとり税理士というスタイルへのこだわりは変わりません。自分が窓口となり、税理士が直接相談に乗ること。将来の経営のことや従業員のことなど、幅広くご相談いただく中で、経営者にとっての身近な相談相手でありたいと思っています。中小企業の経営者は、別途コンサルに費用をかけるのが難しいことも多いからこそ、税理士が数字や税金の話にとどまらず、判断の材料を整理し、一緒に考えられる存在でありたいんです。
人として好きになってもらいたいというのが一番の本音です。AI時代だからこそ、温度感のある、人として好かれるような税理士が求められるんじゃないかと思っています。デジタルに強いことはもちろん大事ですが、それだけでは差別化にならない時代が来ている。この人となら仕事がしたい——そう思ってもらえる存在であり続けたいですね。
最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
税理士は税金のことだけではなくて、身近な相談もできる専門家の一人だと思っています。もちろん、プロフェッショナルとして数字や税金のことはわかりやすくお伝えします。それは当たり前のこととして、その上で迷った時に、一番に相談してみようと思っていただける存在でありたい。そう思っていますので、ぜひお気軽にご相談ください。

取材後記
「自分に自信がなかった」——その言葉とは裏腹に、中学2年生で税理士を志し、高校野球で全国大会に出場しながら簿記3級を取得し、引退と同時に2級の勉強を始める行動力。心配性だからこそ人より早く動く——そうした姿勢が、進化し続けるキャリアを支えてきたのだと感じます。
その歩みを支えてきたもののひとつが、「人として好かれたい」という一本筋の通った思いなのかもしれません。クラウド会計やAIを取り入れながらも、見据えているのは、あくまでお客様により良く向き合うこと。言葉の端々には、一貫した信念が宿っていました。
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